この日は頭から血を流すという初経験を新宿の飲み屋ですることになった
 
 
店の中二階(ロフト)に通され狭さを気にしながら飲み始めた

 
微妙な盛り上がり方に離籍率が妙に高かった

 
会計も催促されて最後のタイミングにおれもトイレに立った

 
天井の低さに頭を屈めながら階段を下り用を済ませた

 
戻る際にも天井を気にしながら自分の席へと向かった

 
足元を注意するのを怠ったおれは1人の足を踏んでしまう

 
ネタのためにもその場で土下座までしてしまうおれ

 
謝罪を済ませ目の前の自分の席に体を向けたときだった

 
立ち上がる勢いとともに低かった天井に頭を強打した

 
もう踏まないと足元に注意しすぎた為に天井を意識し忘れていた

 
あまりにもの衝撃で目の前が真っ白になり前のめりにうずくまった

 
悲痛の叫び声とともに

 
周りからはこのボケに対する歓喜で盛り上がっていた

 
何も嬉しくないおれは否定をしようと顔を上げ始めた

 
声が一瞬途絶えた

 
額上部を押さえるおれの手では妙な温もりを感じた

 
それは人肌の温もりではない

 
そしてなんだか滑らかな立体感さえ感じられた

 
そうか液体か

 
なら汗かと疑った

 
あまりにもの痛さで汗をかいたのかと驚いた

 
しかし周りの人間はそのおれの言葉を否定した

 
濃い赤い液体であることを告げられた

 
そう血であった

 
患部を押さえている左手の他に右手が遊んでいる状態

 
その右手で頬をつたうぬくもりの正体を拭ってみた

 
その右手を見ると肌色が赤く染色されていた

 
思わず笑いがこみ上げてきた

 
まるでこの世が終わったかのような呆れた声で

 
何してんだろおれ

 
そして情けなさと驚きからだけでもなかった

 
心配して真っ青になっている周りに安心させるために

 
数秒もたたないうちに二人の店員が狭いロフトに駆け上がってきた
 
 
男女のペアだった
 
 
男の方が女の背中をおして多己紹介をした
  

看護助士であることがわかった 
 
  
周りの人間の顔の力が抜けたのがわかった

  
笑顔を絶やさなかったおれの心の動揺も収まりつつあった

  
観てもらうよりも多量のおしぼりを要求した  
 

天井にヘディングしただけの頭からは多量の血が吹き出ていた

冷たいおしぼりが体温で温まるタイミングで次々と交換した 
 
 
役目を終えたその濡れタオルは赤い斑点をつけ続けた 

  
しばらくして、看護助士や周りの仲間に傷口を診てもらった

覗き込んできた人間はみんな、意外にも安堵の声をもらす 
  
 
切ってはいなかった

すりむいたような傷だった
 
  
それから30分程の間は力の抜けた手でおしぼりを押さえ続けた   
   
血が止まる方が早かったのか

店員が退出を催促する方が早かったのか 

 
店を出た時には血は垂れてこなくなった

鏡で患部を照らしてみると皮膚がめくれて赤くもりがっていた 
 
 
帰りの電車では笑い声にしかならなかった

徒歩という運動で血行がよくなったのか

その運動によってアルコールが体内を駆け回ったのか

家について鏡をのぞくと額には一筋の赤い雫が垂れていた 
 

顔の表面には笑いしか出てこなかった

数時間ベットの上で安静にした後に頭部を簡単にシャンプーした

それから3日間は頭部に刺激を感じながら生活をした

今は意識しても脳内の電気信号は走らない

鏡を見ないとその出来事を意識することができない

髪を掻き分けると赤く膨れ上がったかさぶたが現れる
 
 
笑いにしかならない

 
 

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